●今年度開催場所とテーマについて

愛知県東北部(天竜奥三河国定公園内)にある東栄町は、豊かな山林囲まれ、透き通ったきれいな川が流れる自然あふれるまちである。
市街地は、設楽城の城下町としての面影を残すような静かな旧跡の街並みがある。
また、国の無形民俗文化財に指定されている民俗芸能「花祭り」があり、鎌倉時代から地区ごとに伝承されてきた
共同体の精神と信仰が息づく大切な神事である。しかし、少子高齢化による産業の停滞や、伝統文化の継承も難しくなりつつあるという課題を抱えている。
カンタービレのテーマ「アートでまち元気にする」は、自己表現だけでなく、地域や社会まで視野を広げた作品制作が狙いだ。
作品制作にあたっては「アートで街を元気にするとはどういうことか?」「そもそも東栄町は元気がないのか?」
「よそものが地域に入って作品制作をする意味とは?」といった問いを持ち、テーマそのものを熟考してもらう必要がある。
カンタービレの企画・推進において、地域との関係性の質は非常に重要である。愛知県が実施する起業家支援事業「あいち山里アントレワーク」にて
起業家や事業家との研究活動を進めており、実践的なネットワークを持つ。
事前視察を実施する上でも地域の方々との信頼関係が不可欠であり、地元の起業家や事業家の皆さんとの意見交換を重ねながらプログラム企画を進めた。
人々が集まり、語り合う場には自然とワクワク感が生まれる。高校生たちの宿泊場所や、花祭り会場を訪れ、迫力ある舞を目の当たりにし、
その場の空気を肌で感じた。

●地域共生を体現した和太鼓集団「志多ら」との出会い

和太鼓集団「志多ら」は、花祭りに魅せられおよそ30年前に東栄町に拠点を構えた。
地域と共に生きることとし、真剣に花祭りを学び、継承の技を身につけることに専念し、
今や彼らは地域に欠かせない存在となった。年月を経て、志多らの地域共創は実を結び、
今では全国的にも知られる存在となり、花祭りの継承者ともなっている。
「志多ら」の活動を地域共生の先進事例として高校生たちに伝えることを、企画の出発点とした。

●カンタービレのプログラム日程 
 ①2日間:都内での事前学習 ②3日間:東栄町でのフィールドワーク

  1. 都内での事前学習
    • 1日目
      • 「アート思考とイノベーション」に関する講義、自らの視点で「アートとは何か」を伝えるワークショップ、メンターセッション、志多ら代表による実践的な事例の特別講義。
    • 2日目
      • グループ学習で東栄町についての理解を深め、自分たちのポテンシャルを最大限に探り、グループごとに作品の主題(方向性)を決定しプレゼン作成。

  1. 東栄町での実践
    • 1日目
      • 奥三河の地域の方々に受講生がプレゼンテーションをし、それに応じるかたちで「地域の魅力と課題」が語られていく。和太鼓集団「志多ら」による実演。出演者各々のこの地への想いや、なぜこの地に留まり活動を続けているのかを間近で聞き、塾生たちにとっても、深く心に残る体験となったはずだ。
    • 2日目
      • 地域の魅力と課題、可能性を発見するフィールドワークを実施。各チームがそれぞれメンターと共に東栄町の方々と交流し、町の空気に触れる半日となった。地域のありのままの姿を目の当たりにし、この地が持つ奥深い魅力、人との出会い、そしてその背後にある課題にも気づく。午後の中間発表、各グループがメンターの前で作品のコンセプトやアウトラインを発表し、改善点や新たな気づきを指摘される。作品の意味を考え抜く時間が続き、「アートで地域を元気にする」というテーマの本当の意味を熟考することとなる。最終発表まで残り24時間を切った中で作品としてどうまとめ上げるか、この極限状態での協働制作こそが、地域づくりを通した「自分づくり」のプロセスである。
    • 3日目
      • リハーサルと最終発表会。町長をはじめ交流会やフィールドワーク先の地域の方々約30名観客として参加。ステージでの表現を前提とした作品は、身体表現、演劇、楽器演奏朗読、観客参加型の仕掛けなど、多彩な手法で構成されている。全6チームの作品には共通して、東栄町での交流やフィールドワークから得た感覚と知識が下地として息づいていた。本物に触れたからこそ見えてくる感覚を、作品へと昇華できていた。
        ※右写真:6チームの中2チームの作品発表風景

●まとめ

「地域づくり」には、よそもの、わかものが欠かせないと言われて久しい。その本質は、地域を知ろうとする姿勢を持ち、
作品を通じて感謝や課題提示することにある。
今年度の受講生たちは、自身の創造性発掘のプロセスから自己表現力、地域や社会まで視野を広げたアート思考とマネジメント力(プロデュース力)を
身に着けることができたに違いない。また、彼らを受け入れた地域社会も、あらたな視点での「まちづくり」アプローチに触れることで、
地域の魅力や可能性に気付くことができたと思う。